2015年度
「想い」を生かせる働き方とは ~NPOの実態と労働環境を考える
「NPOで働く」を考えるセミナー浜松編は、NPOのスタッフや理事、学校の先生や高校生3年生も参加しました。
日時 | 2015年11月15日(日)15時~17時 |
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場所 | クリエート浜松 4F 特別会議室(浜松市中区早馬町2-1) |
内容 | 話題提供 わたしたちって活動者?労働者? 話し手:朝倉 邦博さん(NPO法人浜松男女共同参画推進協会) 定森 光さん(NPO法人ささしまサポートセンター) 中尾 さゆりさん(NPO法人ボランタリーネイバーズ) 井ノ上 美津恵(NPO法人浜松NPOネットワークセンター) 聞き手:小林 芽里(浜松NPOネットワークセンター) 講演 NPOの働き方と労働法「次世代に手渡していくために」 |
対象 | NPO・ボランティア団体の関係者、一般市民 |
参加費 | 無料 |
参加者 | 参加者16名、登壇者4名、東大手の会1名、N-Pocket3名 計24名 |
主催 | 浜松NPOネットワークセンター、東大手の会(ひがしおおてのかい) |
話題提供 わたしたちって活動者?労働者?
前半は、NPOで働く3人のスタッフと、代表の方にお話を伺いました。
<NPOで働くようになったきっかけは?>
前半は、浜松、名古屋のNPOで働く20~40代のスタッフによるパネルディスカッション。
NPOで働くようになったきっかけは、リーマンショックで首になったことだったり、会社勤めの傍らボランティアとして関わっていて声がかかったり、緊急雇用があって手伝っていたNPOに雇用されたり…と様々。働き方もフルタイムがあれば、他の仕事と兼業もあり。
<NPOで働くことのやりがい>
「企業では組織の一員として決まった仕事をするだけだった。NPOでは自分で企画したり、仲間と共に“こうなったらいいな!”を実現することができる」「それまでの職場では話題にもならなかった社会的な課題について、話すことが増えて社会勉強にもなる」「NPOでは男女の役割分担や年功序列に関係なく働ける」「組織が未整備だからこその“創っていく”楽しさがある」そんな話がでました。
<NPOで働くのに大変なこと>
やはり身分や待遇が不安定なこと。また「育ててもらう」ことが期待できない。やりたいことが大きく膨らみすぎて、自分で自分の首をしめてしまうこと…などが出ました。
<活動と仕事の線引きは?>
休日のイベント参加などは、自分自身のためにもなるから「活動(=無報酬)」でも気にならない人がいる一方、ボランティアと有償スタッフとの違いはドライに割り切って、活動は「行きたいと思えない時は休む!」という人もいました。オーバーワークなりがちな労働も、自分で管理しないといけないということですね。
ボランティアから入ったスタッフは、労働も活動(=自発的、やりたいこと)の延長に位置づけられる人が多いと思うのですが、稼ぐために就労している人にとっては、無報酬=強制?=ブラック労働??になりかねません。この線引きは人によって随分異なるので、雇用する側は気をつけなくてはいけない部分です。
<NPOでのキャリアを活かせるか?>
企画力やプロジェクトの運営力、交渉したりコミュニケーションをとったりする力はNPOではとても鍛えられるので、様々なスキルとして売り込むことができるのでないか。起業する力がついた、という発言もありました。NPOの現場で専門性を養って士業になった人もいました。
まだまだ社会的な地位や評価は高くないかもしれないけれど、売れる強みは持っている!という若者たちの発言は頼もしいものでした。
<有償ボランティアの扱いは?>
給料は実費か/謝金か、最低賃金以上か/最賃以下か、自発的で柔軟性があるか/指揮命令系統や規定があるかによって、「労働者」「ボランティア」の捉え方、扱い方が変わってきます。
「保険等が支払えないから雇用でなくて謝金で」という話は時々ききますが、その“有償ボランティア”、違法状態ですよ?という状況もあるので、注意が必要です。
この課題について整理しました。→「有償ボランティア」をどうとらえるか?
講演 NPOの働き方と労働法「次世代に手渡していくために」
特定社会保険労務士の家村先生には、制度についてお話しいただきました。
労働に関する法律は数多くあるが、雇う/雇われる関係性が明確な工場労働者を想定して作られてきたので、NPOのような多様な働き方には適さなくなっています。
現代の労働者性とは、労働基準法で「…使用される者で、賃金を支払われるもの」と規定され、労働者に該当すると判断されれば、労災保険や雇用保険、労働環境などの保護がはかられます。一方、「労働者性なし」と判断されれば、これらの保護は一切はかられないという二者択一的なものになっています。
例えば、パート、アルバイト、派遣などは明確に労働者といえますが、個人請負者、極小企業の経営者は労働法上「使用者」という扱いになっていても、実質的には労働者的性格が強い場合もあります。
NPOの有償ボランティアは、組織から指揮命令を受けながら活動していて、労働者的側面を持つ働き方をしてはいますが、当事者の心理としてはあくまでも「社会貢献」であって、金銭的な対価を求めていない場合も想定されます。また、その「有償性」も交通費など実費だけ、弁当などの支給がある、最低賃金に満たない金額など様々な支払い方があるが、労働の「対価」として位置づけるには些少であることが常です。
昨今の多様な働き方を鑑みた時、有償ボランティア、とりわけ公共領域で働く者の労働者性について「新たな枠組み、判断規準」の創設、つまり法制定が必要と考えます。
参加者の感想(アンケートより)
- NPOという組織がどのようなことで悩んでいるのか知ることができた。
- 今、特別支援学校で働いていますが、学生の多くは社福、NPOに福祉就労します。学生の行き先であるNPO法人の職員の方(作業所の指導員)がどの様な働き方をしているのか非常に興味があり、大変勉強になりました。
- NPOで働く方の生の声、考え方が聞けて良かった。NPOで長く働くためのしくみも必要だが、NPOをステップに就職や起業する人たちにとって、身に付けたノウハウやキャリアが活かされる、評価される仕組みも必要だと思いました。
- 現行の労働法では解決できない問題が起きている、という専門家(社労士)の認識を聞けた。
- 法体系を整理していただき、目指すあるべき姿を示していただけた。「ないもの」は作り出す必要性が分かった。
- 労働としての対価をNPOで考えるのは悩ましいテーマですね。
- 労働と活動の基準(ボーダーライン)の位置づけが重要なのだと感じました。
セミナーを終えて:若い人材が持続的に働ける環境をつくりたい
若いスタッフたちは「雇用は不安定だし、給料も多くないけれど、NPOで働くやりがいは大きい!」と言います。でも、やりがいがあるから、安くても不安定でも我慢してね、のままでは「やりがい搾取」になりかねません。
NPOの経営として、市場性がある事業(スポーツクラブなど対価が得られるもの)や、制度による事業(介護や障害者支援)は収入が比較的安定しているので、安定した雇用が実現できますが、単年度の委託や助成金でやりくりしている団体は、雇用の資金と人の確保はかなり苦しい状況にあります。助成金でも「NPOはボランティアで運営するもの」と思われているのか、スタッフの人件費が計上できないものも少なくありません。
若くて優秀な人材がNPOの現場で持続的に働けることができることが、NPO活動の底上げにもつながっていくので、持続可能な働き方や雇用の方法については引き続き議論していきたいと思っています。