2013
多文化わかものカンファレンス2013
浜松市は日本でも有数の「外国人集住都市」であり、リーマンショック以後も日本生まれ、日本育ちの「移住第二世代」が増えています。また、国際結婚の増加に伴い、日本国籍であっても「外国をルーツにもつ子ども」も増えています。
言葉や文化の違い、複雑な家庭環境や経済的な困難などを乗り越え、様々な支援にも助けられて育ったわかものたちがいる一方で、同じ「当事者」でも日本社会から離れ、外国人コミュニティの中で生きる人たちがいます。彼らが親となった時に、自分の子どもたちに同じような悩みを抱えさせてしまうのではないか?と心配しています。
親たちの多くは単純労働に就いているため、周りにロールモデルが少なく、自分も将来は単純労働しかないと思い込み、自分の可能性に気づかない青年たちがいます。親世代になりつつある第二世代を巻き込んで、一緒に考える機会として、教育をテーマにしたカンファレンスを開きました。
また、複数の文化を持ち、グローバル人材としての潜在力を持つわかものたちがネットワークを広げ、自ら発信することを多文化社会の強みとしたい、日本人の若者も参加することで、誰もが住みやすい、多文化共生を活かしたまちづくりにつなげたいという想いもあり、このような場をつくりました。
ここでまとめた意見や提案が日本社会に反映され、豊かでカラフルな「多文化共生社会」が創造されていくことを願っています。
概要
日時:2013 年7月20 日(土)~21 日(日)
会場:浜松市青少年の家、クリエートはままつ
参加者:ブラジル、フィリピン、朝鮮韓国、ベトナム、モンゴルにルーツをもつ若者が23 名
日本人18 名 計41 名
主催:The TOKAI Branch of the “GAIJIN”
(Group of Amigos Immigrants in Japan for Intercommunicating and Network)、
共催:浜松NPO ネットワークセンター(N-Pocket)
協力:浜松国際交流協会(HICE)
補助:平成25 年度 浜松市「みんなのはままつ創造プロジェクト」
事業の内容
■ 若者による、若者のための会議
多文化なわかものたちが集う場としては、N-Pocketが2004 年、2005 年、2010 年に合宿形式の「多文化わかもの全国交流会」を開催してきました。今回はGAIJIN TOKAI のメンバー、当事者自身が「やりたい!」と声を上げ、企画・運営しました。
テーマは「教育」。ワークショップやディスカッションを通して、外国にルーツをもつ子どもたちの教育を考え、自分自身が何かを学べる場を設けました。
■ 自分の可能性、チャンスに気がついて
一日目は「早くから働くか?進学するか?」をテーマに、裁判形式で進路の選択についてディスカッション。最近は多くの若者が夢や目標をもたずに、将来のことを特に考えることもなく過ごしているように感じます。さらに外国ルーツだと、周りの人たちが限られた職業に就いているので、将来のことや自分の可能性に気付くことが難しい状況におかれています。学校に通っている学生たち、中卒で働いている若者たちに、彼ら自身がもつ可能性やチャンスに気づいてほしいという目的もありました。
実際に早くから働いている参加者から、「自分を見つめ直す機会になった」「第一に自分がやりたいことを探す必要がある」という声を聞くことができました。
■ 写真や演劇をつかって表現
二日目は、街中の人を巻き込み、テーマに合った写真を撮る“フォトスカベンジャーハント”。多様なグループなだけに、とてもユニークで、クリエイティブな写真が集まりました。
演劇ワークショップでは、2 人1組で学校・就職をキーワードに、“予測不能”をテーマとした演劇を即興で演じました。劇中に音楽が流されたり、違う人が割り込んだり…。講師のジルソンさんは「劇と同じように人生でも予測不能なことが起こる。その時に立ち止まるのではなく、それを活かして前進しなければいけない」とワークに込めたメッセージを語りました。
■ 子どもに適した支援の方法は?
最後は「外国ルーツの子どもたちに特別な支援は必要か?」をディスカッション。精神面を考えると、彼らのことを理解できる人が間近にいる/いないとでは大きな差があることから、必要という人がほとんどでした。
しかし、取り出しだとその間に行われる授業の内容を逃すし、他の生徒たちと接する機会も減ってしまうので、放課後や休日に学習支援を行う形がいいのでは?という意見も。個々の希望をふまえた支援の方法を考える必要があることが多くの参加者の意見でした。
■ “カラフルな社会”をめざしたい
今回このようなイベントに初参加の人が多く、「新しい気づきがあった」「いろいろ考えさせられた」といった感想があがりました。外国ルーツの若者たちは、自分たちの経験や考えを発信する場になり、日本人の若者は、身近にいながらも見えにくい外国ルーツの人たちの生活や思いが見える有意義な場になりました。日本自体がこのカンファレンスのように、国籍やルーツに関係なく、誰もが自分らしく、生き生きと過ごせる国になってほしい!と感じました。
プレ・ディスカッション「親になったら、家庭内の言語をどうする?」
準備段階で、10~30 代の移民第二世代たちが親となった時、日本で暮らすのに「母語教育は必要か?」を議論しました。参加者は9人(ブラジル、インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本)で、母語を使える人も使えない人も、ランダムに1)肯定派、2)反対派、3)傍観者に分けて、自分と同意見/反対意見、双方の意見を考えられるようにしました。
家庭内では母語、外では日本語という環境で子どもを育てると、バイリンガルを育てる一方で、「ダブルリミテッド」になってしまう心配もあります。バイリンガルに育てるには親の徹底した努力が不可欠で、母語教育はただの語学教育ではない、母語教育のメリット・デメリットは何か?母語がなぜ大切か?を考えるきっかけとなりました。
ディスカッション1 「早くから働くべき? それとも進学すべき?」
ディスカッションは裁判方式で、1)被告人役、2)検察役、3)弁護役に分かれて行いました。被告人役は、中学を卒業して働くことを選んだブラジルルーツの若者で「自分の力で稼いで自立した生活をしていて、進学する必要は感じない」と言っています。弁護役は彼の意見を支持する立場で、検察役は「不安定な今の生活を考え直し、進学を勧める」という立場で議論を行いました。
弁護役の人たちが苦労したのは「進学をしなくてもいい、という気持ちがわからない」。最後まで被告役を「進学しようかな」と思わせることはできませんでした。早くから働くことを選ぶ背景や考えを理解するには、当事者同士が相互理解する交流の場がもっとほしいと考えました。それでも、将来を見通して人生を考えていく必要があるという点は、どちらの立場でも共通していました。
ディスカッション2 「外国ルーツの子どものための特別支援は必要か?」
外国ルーツの子どもたちには日本語指導や様々な学習サポートがありますが、効果的な支援のために、小中学校で支援を受けた自身の体験を元にグループで話し合いました。
日本語がわからない時期には日本語の土台づくりに役立ったという意見が多数。一方で、取り出しについては「授業に遅れる」「高校受験に間に合わない」というデメリットも語られました。
他国で暮らす不安、言葉の壁や家庭内での文化の違いなど、外国ルーツの子どもならではの気持ちを理解し、相談できる人の存在は非常に重要で、精神面のサポートという面では全員が支援は必要と答えました。
参加者の感想
外国ルーツ
- どの活動も自分自身のルーツについて考えさせられるものでした。他のわかものとも交流をしたいし、日本に多文化という雰囲気を作ることについてもっと学びたい。アクティビティいっぱいでみんな楽しめたと思います。
- 素敵な人がいっぱい。いろんな意見聞けて良かった。自分の事色々考えなおしたくなったね~きっかけ大事やな!
- 目指すところは、交流会がなくても、いろんな人が交流できる世界になること!
- 自分のルーツを互いに理解しあい、多くの方とディベートをしたことで、多くのことを学びました。みんなの意見を聞いて、このままじゃいけない、もっと自分が感じること思うことを発信して、日本人に伝えていかなきゃ何も変わらないと思いました。
- ルーツがいろいろある人たちがたくさんいる所にいるのは初めて。すごく楽しかったし、みんなすごい「カラフル」だなと思った。
いろんな顔ぶれが集まって、演劇ワークショップやダンスをやって、みんなが一体化したと感じた。喧嘩するんじゃなくて、いろんな意見をはっきり素直に言える関係が、日本でこのまま実現したらいいな!嬉しかったです。
日本ルーツ
- とても考えさせられた。被告人が経験してる考え方や行動は、外国ルーツだけでなく、日本人の今の若者にもあること。「今が楽しい」「やりたいことがない」からだらだら過ごしている日本の若者もやりたいことを見つけ、将来のことを見すえた生活をするような教育をしていかなければならないと思いました。
- めっちゃフレンドリーな空気に最初びっくり!人と仲良くするのに人種とかあまり関係ないんだと感じました。とてもいい時間でした。ありがとう。とってもとっても楽しかったです!
- 進学のことや、取り出し授業のこと、経験した当事者の意見を聞くことができて良かった。いろんなルーツの人の意見がこれからの日本をつくっていくのだと思いました。もっともっと交流したい!出会えてよかった。
- 世界から学ぶこと、もちろんある。だけど、この日本、静岡でもこんなに高いスピリット持ってる人がたくさんいて、鳥肌ビンビンたちました(笑)!
- 日本人の感覚で世間一般で言う【外人】の方が大勢いました。自分は偏見の目は持っていないつもりでしたが、より深く知ろう、考える思慮深さが足りない事に気づかされました。
- この交流会を続けて輪を広げていったら、笑顔の絶えない人ばかりになるんじゃないかと感じた。大事にしたいと思います。
報告書
ディスカッションの経緯やまとめ、ワークショップの写真、参加者の声などオールカラー24ページにまとめました。600円。